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その内側へ

私は昔から興味のあるものほど内側に入りたくなる性分でした。

 

野球観戦に行けばグラウンドに降りたいし、コンサートを見に行けばステージに上がりたいし、お祭りに行けば売る側に回りたいし、同人誌即売会に行けば机の内側に入りたいと思ってしまいます。

 

その上やっかいなことに、負けず嫌いで目立ちたがりだったので、迎えられる側ではなく迎える側、お客ではなく主人、常に主客の主の方でありたいと思っていました。

 

ゆえに、就職も進学もスポーツも、好きなことではなく得意なこと、勝てそうなこと、認められそうなことを選んできました。

 

 

そんな私ではありますが、すすきのに店を開きたいと思ったきっかけは、純粋にあこがれによるところが大きかったです。

 

大きいとどころかほとんどすべてと言ってもいいかもしれません。とにかく子供の頃から恋焦がれていたこの街の構成員になりたかったのです。

 

春道堂を開いた直後は、あこがれの街で主客の主になる夢が実現したことが嬉しくて、いかにもすすきのの店主らしく振る舞おうと、誰にでもぺらぺらと話しかけまくっていました。

 

しかし、営業を続けるうちに、店主面して出しゃばるよりもお客さんがあずましく過ごせるよう裏方に徹するほうが、私自身もずっと楽しく心地よく働けると気付きました。

 

3年8ヵ月ほど営業を続け、今年の1月末に閉店するころには、あれほど強かった内側への執着、主客の主でありたいとの欲求がほぼ消えていました。

 

子供の頃から続いていた、長い長い自己顕示欲との戦いがようやく終わりを迎えたのだと思いました。敗北ではなく勝利と言う形で。

 

けんかの時の猫のみたいに背を丸め毛を逆立てて自分を大きく見せようと必死になるよりも、等身大で自然体の自分で生きるほうが、よほど楽だし自由なのだと知りました。

 

 

第5グリーンビルの5階にもう春道堂はないけれど、あの湾曲したカウンターの内側にいた日々は確かに私を変えてくれました。

 

春道堂は小さなお店でしたが、3年数ヵ月の間、憧れのすすきのを裏から支える一員であったことを、これからも生涯誇りに思います。

 

夜のにおいに胸を高鳴らせた高校生のころも、店主でいた間も、再び一消費者に戻っても、すすきのは常に変わらず私のあこがれの街です。

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