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春道堂への道②

春道堂への道はかつてこのブログで連載していた物件探しから開店に至るまでの道程のお話です。

 

閉店が迫った今だからこそ、あの頃の気持ちを振り返りたく、加筆修正のうえ再掲いたします。

 

 

前回からの続き】

 

2013年秋、出店場所をすすきのに定めた私は立地調査と周囲へのリサーチを始めました。その結果、すすきの駅から南側進めば進むほど風俗店や男性向けの店が多く、女性にとっては行きにくい場所であることがわかりました。

 

今回の店舗コンセプトが「自分の友達がやっていたら嬉しい店=友達が来やすい店」ですから、女性が気軽に飲みに来られないような場所じゃ意味がありません。出店場所はすすきの駅の北側か、南側なら一丁くらいまでの範囲に絞られました。

 

目指す場所が決まったら次はいよいよ物件探しです。前の店探しの時にもお世話になった常口さんに頼むことにしました。

 

私は日ごろは慎重な方ですが、勢いがつくと一気に突っ走ってしまうところもありので、衝動契約防止と客観的意見の担当として、友人のPにも同行してもらうことにしました。

 

まずは電話で約束を取りつけ、緊張しながらPと二人、仲介業者さんの事務所に向かいました。担当の方は温厚そうな男性で、すすきのの物件探しに緊張し怯えていたのでほっとしました。

 

まずは希望の立地条件と一人で出来るような小さい店を探していると言うと、すぐにパソコンを開いて物件を検索してくれました。

 

もしかしてすぐに決まっちゃったりして…… と甘い期待を抱いていましたが、私の希望に合う物件は想定よりもはるかに家賃が高く、いきなりの前途多難ぶりに衝撃を受けました。

 

でもまぁ、初回だし、そんなもんかと思いなおし、立地条件は一旦はずして、予定していた家賃額に合う物件をピックアップしてもらったところ、駅からそう遠くないビルの物件がいくつか出てきました。

 

今すぐに中を見せてもらえるという話なので、早速3人で徒歩で向かいました。

 

3軒ほど見て回りましたが、どこも内装が汚れていたりセンスがひどかったりと、大掛かりな手直しが必要な状態で、駅からも遠すぎて一つとしてしっくり来ませんでした。

 

落胆しながらも、今後良い物件が出てきたらお知らせくださいと伝え、その日は帰宅しました。

 

その後も仲介業者さんは度々物件を紹介してくれましたが、広ければ家賃が高く、狭いからと言って家賃が安いとも限らず、場所が良くて家賃が安ければ大幅な改装が必要で、安くて内装がきれいなところは駅から遠い上にトイレが男女共同だったりと、どの物件も帯に短したすきに長しでした。

 

店を開くならすすきのしかないと心に決めての物件探しでしたが、いくつ見ても理想からかけ離れたものばかりで、今の私ではすすきのに店を持つなど不可能なのかもしれないと、心が折れそうになりました。

 

しかし、私のやりたいことを実現できる場所は北海道内にはすすきのしかないと言うことは、前の店の失敗を踏まえ、考えに考えた末にたどり着いた結論です。いまさら他の場所で探す気にはなれません。

 

物件探しだけは自分の努力ではどうにもならず、やりたいことは決まっているのにまったく先が見えない日々は歯がゆく苦しいものでした。

 

開店してしまえばメニュー開発や販促活動など、やれることがたくさんあるけど、条件に合うものが見つからなければ永遠に店を開くことはできません。

 

仲介業者さんからの電話をただじっと待つのも辛いので、なにかヒントが見つかるのではないかと仕事の後にすすきのに向かって闇雲に歩き回りました。

 

物件探しを始めた頃は秋でしたが、すでに季節は真冬に突入してました。絶え間なく歩いていても身体は冷え切り、時々ビルに入り込んでは暖を取っていました。

 

そんなことを繰り返し、あるビルに一歩入った途端にその暖かな雰囲気に魅了されました。

 

駅からほど近く、通路もトイレもきれいで、営業中の店はにぎわっていて、物件探しを開始してから初めて、ここで店を開きたいと思える場所に出会えました。

 

しかもいくつか空き物件があるようなので、相当家賃が高いのだろうなと思いながらも、仲介業者さんに聞くだけでも聞いてみようと翌日メールを送りました。

 

すぐに仲介業者さんからの返信メールが届いたのですが、添付資料を見て衝撃を受けました。あんなにいい場所なのに、今まで見た物件の相場からは信じられないほど家賃が安かったのです! 

 

これは運命かもしれない! もうここで店を開くしかない! 

 

完全に舞い上がった私はすぐに友人Pに同行を頼み、期待に胸を高鳴らせながら内覧に向かいました。

 

つづく……

 

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