百合と私

こんにちは、中村です。冬晴れのいい天気ですね!

 

本日はPorocoさんに掲載していただき、ついにメジャーデビューを果たした百合コースについて語りたいと思います。

 

母の知り合いの農家さんから分けてもらった良質の百合根をふんだんに使用し、さまざまな調理法と味付けで百合根を楽しんでいただく百合コースは、冬季限定の人気メニューです!

 

百合根はその名のとおり、花の百合の根っこです。栽培には広大な土地が必要な上に、植えつけてから出荷できるようになるまで大変手間のかかる作物です。

 

以下、百合根の箱の同梱されているパンフレットの一部です。

種をまいて数ヵ月で食べられる野菜も多いですが、百合根は3年もの時間をかけて大切に育てられ、たっぷりと栄養を蓄えます。漢方薬にも使われるほどの素晴らしい食材です。

 

 

私の母の実家は米農家でしたが、百合根も栽培しておりました。夏場は電気も水道も電話もない山の奥の小屋に祖父母が住み込んで百合の世話をしていました。青いトタン張りの小屋の入口に「熊出没」と書かれた看板が張られていたことを今でも印象深く覚えています。

 

父母と私もたまに泊まりに行っていたのですが、明りはランプ、水道は湧き水を引いたもの、煮炊きは真夏でも薪ストーブに火をつけて行い、風呂は薪で沸かした屋外の五右衛門風呂、トイレは畑の中にある掘っ立て小屋でトイレットペーパーの代わりに少年マガジンを切ったものが置いてあり…… 

 

と、非常に野趣あふるる環境で、開拓当時の北海道移民そのままみたいな暮らしでした。

 

付近に街灯はなく、見える範囲に民家もなく、車もめったに通らず、日が落ちると小屋の外は漆黒の闇で、空には覆いかぶさってくるみたいに大量に星があり、またたく音まで聞こえそうなくらいでした。今になって思えば、ずいぶんと贅沢な体験をしたものです。

 

 

すでに祖父母も亡く、山奥の小屋もずっと前にないそうですが、あの頃も今も百合根は高級食材です。女性の進学率が高くなかった時代、母は百合根のおかげで高校に行かせてもらえたと言っていました。

 

母が高校に進学できなければ父と知り合うこともなく、私が生まれることもなかったはずです。今は百合コースのおかげでたくさんの方にお店に来ていただけますし、三代に渡り私たち一族の人生を支えてくれている百合根には心から感謝します。

 

 

私は今でこそ百合根を深く愛しておりますが、偏食だった子供のころは百合根が好きではありませんでした。

 

うす甘い繊細な味は子供にはつまらなく、それ以上に百合の花の根っこだと思うと何となく気持ち悪くて、いくら高級食材だと言われてもありがたく感じられず、カレーにまで入っているのをよけて食べていました。

 

一昨年母から「良い百合根を農家さんから分けてもらえるので店で使うなら送るよ」とメールが来た時も、好きじゃないし使い道がないから断ろうと思ったのですが、その時たまたま百合根好きの友人と一緒だったため、百合根を使った百合コースを作ったらおもしろいかもと半分冗談で盛り上がり、ひと箱送ってもらうことにしました。

 

後日、百合根を使っていろいろなお料理を作ってみたところ、これが百合根が苦手だった私もびっくりするくらい、どれも非常においしかったのです!

 

百合根は味に一切のくせがなく、火の通し方によってホクホクにもシャキシャキにも食感が変わります。裏ごしすれば繊細な味わいの百合根まんじゅうにもなります。

 

子供の頃は毛嫌いしていたけど、百合根というものはたいへんに料理のし甲斐がある素晴らしい食材なのだと、この年になって初めて気付きました。そこからはもう、私も百合根のとりこです。

 

百合根が好きな女性の方も予想以上に多く、昨季はひと冬に3回も百合コースを注文してくだった方もおられました。本当にありがたいことです。

 

 

ところで、なぜ百合根コースではなく百合コースなのかと尋ねられることがあります。

 

語感が良いせいもありますが、百合根があまりに身近だった私や母や親族たちは百合根のことを「百合」と呼ぶのが普通でした。母に「百合いる?」と聞かれれば、花ではなく根の方だとわかりますし、今も家で「百合の煮たの食べる?」などと尋ねられます。

 

百合と言う呼び名は、私たち百合農家の子孫にとって慣れ親しんだもので、いわば親愛の証です。今こうしてブログを書いていても何度も「百合」と書いたあとに根を足して「百合根」にしているくらい、百合と呼ぶのは私たちにとっては普通のことなのです。

 

百合根と言うとなんだか他人行儀な感じして落ち着かないので、これからも名称は「百合コース」で行きます! 

 

 

おそらく日本でここだけ、コースの最初っから最後まで百合根をつかった春道堂の百合コース、未体験の皆さまにもぜひ一度お試しいただきたいです。冬だけのおいしさですので、ぜひとも今のうちにご賞味を!

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