鶏むね肉の話

鶏むね肉は低カロリー高タンパクでおいしく、脂っこくないので冷たいなお料理にも使える素晴らしい食材ですよね。

 

春道堂でも高頻度でお料理に使いお出ししているのですが、どうすれば柔らかくできるのかとお客さまから尋ねられることが度々あります。ご家庭で作ってもこんなに柔らかく仕上がらないと。

 

鶏むね肉はちょうどよい火加減で加熱をやめて、余熱で調理すれば特別なことをしなくても十分柔らかく仕上がるのですが、火を入れる過ぎると確かに固くなってしまいます。

 

調理師生活13年の今でこそ火加減とタイミングを見て毎回確実に柔らかく焼き上げることができますが、私も調理の仕事を始めて間もないころは生焼けが不安で度々焼き過ぎてしまったものです。

 

 

私は29の年に会社を辞めて調理学校に入学しました。昼間は学校に通い、夜は生活費を稼ぐために居酒屋でアルバイトをしていたのですが、その店は客席数の多いのに厨房の人数が少なく、しかもメニューの多くが手作りで、仕込みも調理もとにかく大変でした。

 

高校を出てからずっと一人暮らしでしたから、自分の食べるものは自分で適当に作ってはいましたが、料理上手と言うわけではなく、特に揚げ物や焼き物は面倒でほとんど作ったことがなく、包丁遣いも料理好きの同年代の女性よりもずっと下手で、つまりはど素人でした。

 

それがアルバイトで入ったその日から大量のザンギを揚げたり、何十本と焼き鳥を焼いたり、その合間にサラダを盛りつけたり肉を切ったりすることになり、繁盛店だったので次から次へと注文が入ってきて作っても作っても終わらず、パニックになって焦がしたり食材を載せ忘れたり、しょっちゅう失敗をしていました。

 

またもや焼き鳥を焦がしてしまったある日、料理長にこんなことを言われました。

 

「肉をがちがちに焼くだけなら家庭のおっかちゃんだってできる。お客さんはプロの作ったおいしい料理が食べたくてお金を払って店に来ているんだから、常に一番おいしいぎりぎりのタイミングで焼き上げることを意識しなきゃだめだ。生焼けだったって戻されたら『すみません!』って焼きなおせばいいんだから」

 

そう言われたところで美味しく焼き上げる技術はすぐには身につきませんでしたが、この言葉は今でも調理をするうえでの私の教訓になっています。

 

お料理をお出ししてお金をいただくからには、調理師としての誇りと自負を持って真剣に調理に取り組まなければならない。どうすればもっと美味しくできるかを常に勉強し続けなければならないのだと。

 

当店のお客様は女性の方がほとんどですので「家でも良く作るけど、ここで食べるとなんか違うんだよね」との感想をいただくと、プロとして認められたようで嬉しくなります。

 

 

おっと、話がそれてしまいました。鶏むね肉の話でしたね。

 

調理にあまり自信のない方でも鶏むね肉を失敗なくやわらかくおいしく仕上げる方法があります。それはそぎ切りにして塩こうじに漬けること。塩こうじにつけておけば多少焼き過ぎても問題ないくらいやわらかくなる上にうまみも格段に増します。

 

私はむね肉を買って来るとすぐに切って塩こうじにつけます。そのまま焼いてもおいしいですが衣をつければカツレツにもザンギにも南蛮漬けにもできますし、調理直前に下味をつける手間も省けます。

 

しかも素晴らしいことに塩こうじにつけることで日持ちするようになるのです!

 

牛肉や豚肉はある程度時間をおいた方がおいしくなると言いますが、水分量が多い鶏肉は鮮度が大事です。買ってきた鶏肉をすぐに使わなかったら、賞味期限内でも嫌なにおいがした…… なんて経験は皆さんあると思います。

 

塩こうじにつければ軽く3日以上は持ちますし、しかもどんどんうまみが引き出されて味が深くなるのです。こんな素敵な調味料、あまりないですよね。

 

塩こうじは市販もされていますが自分で作った方が安くておいしいので、レシピを検索してやって作ってみてくださいね。驚くほど簡単ですから。

 

なお塩こうじにつけた後の日持ちは鶏肉の鮮度や冷蔵庫の温度、塩こうじの濃度により異なりますので、こうじの発酵臭とは違う嫌なにおいがしたら傷んでいる可能性もありますので気をつけて下さいね。

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