百合コースとビーフシチューと飲み放題

先日もこのブログで述べましたが、今年は料理店としてよりお料理に力を入れたいと思っております! そのために考えていることが色々あり、自分の考えの整理も兼ねてここで語って行きます。

 

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私自身が大の酒好きなので、今までのコースは飲み放題つきのものがほとんどでしたが、開店して一年半以上が経過し、飲み放題と言うシステムの問題点にも気付きました。

 

飲み放題は全員が想定し得る最大量までおかわりされても赤字にならないよう、お料理にかけられるお金を計算するので、お得なコースでは使える食材が限られてしまいます。

 

また、大人数でのご宴会時にもおかわりの準備やグラスの洗浄に時間を取れるよう、コースのお料理は調理の簡単なものにせざるを得ず、レパートリーを広げにくくなっていました。

 

コース料理はご予約のお客様の年齢や趣旨に合わせて準備できるのですから、もっと手間をかけていろいろなものをお出ししたいところなのですが、飲み放題との両立を考えるとなかなか難しいです。

 

しかし昨年末に始めた百合コースとXmasビーフシチューが好評だったこと、当店最上位の贅沢コース・天をご注文があったおかげで、コースに関する考え方が大きく変わりました。

 

すべてについて語ると異様に長くなるので、今回はまず百合コースとビーフシチューで思ったことについて。

 

 

◎百合コース

 

百合コースをはじめたきっかけは赤平産の百合根が手に入るけど欲しいかとの母からのメールでした。

 

私はさほど百合根が好きじゃなかったので魅力を感じず、料理にも使いにくいしどうしよう…… と思ったのですが、その時店にいた友人が百合根好きで、百合根を使った百合コースを作ったら面白いのではないかとの話になったのでした。

 

問題は百合根だけでコースを組めるのだろうか? と言うところですが、試作したところ予想以上においしく、独特の食感と奥ゆかしく上品な甘さはどんな食材にも良く合い、百合根がさほど好きではなかった私もすっかり魅了されました。

 

こうして百合コースは自信を持ってお出しできるものに仕上がりましたが、難しいのが価格設定です。

 

地元価格で安く手に入るとは言え、百合根は野菜としては格段に高価なものですし、味が淡白なので肉や魚などと合わせて使わなければインパクトが弱く、通常のコースよりも材料費がかさむため、飲み放題つきとなると高額に設定せざるを得ません。

 

なによりせっかく美しくおいしく作ったのですから、酒をがぶ飲みするための肴ではなく、お飲み物と共に一皿一皿をじっくりゆっくりと味わっていただきたいと思いました。

 

そんなわけで百合コースに関しては飲み放題はやめてお1人様3杯までのお飲み物つきにし、一品ずつ丁寧に仕上げたいのでご宴会用ではなく2名様用のセットにしました。

 

2800円からコースがある当店ですから、2名様用で6980円、お1人様3490円のコースを果たしてご注文をいただけるのか不安でした。なんせ主役が肉でも魚でもなく野菜の百合根ですし……

 

しかし予想を大幅に上回る好評ぶりに驚きました。こんなにお客様の反応の良いコースは初めてでした。

 

飲み放題じゃないことについてお客様の感想を伺うと、料理のボリュームもあるので飲み物は3杯でも充分とのお言葉をいただきました。特にお酒の弱いお客様は、飲み放題と言うシステム自体に魅力を感じていないことも知りました。

 

それにお客様も飲み放題の時よりもゆったりとお食事とお酒を楽しんでおられるように見えました。飲み放題は時間内にたくさん飲んだほうがお得ですが、3杯までと最初から決まっていると焦る必要もなく、落ち着いて飲食できるのではないかと。

 

私も飲み放題の店に行くと、たくさん飲まないと損な気がして、凄い勢いで飲んで食べてしまいますしね。(そして次の日地獄の二日酔いに苦しむ……)

 

 

 

コースは飲み放題つきじゃなければ受け入れてもらえないのでは? と思い込んでいた私の固定観念が、百合コースのおかげで崩れました。同時に、きちんと手間をかけたお料理を最高の状態でお出しし、一品と一杯をしっかりと味わってもらう喜びも感じました。

 

あの日、半分冗談で口にした百合コースが、私の店に対する考え方を大きく揺るがすことになろうとは思っても見ませんでした。やってみて本当に良かったです。

 

 

◎Xmasビーフシチュー

 

昨年のクリスマス期には春道堂時代から恒例のビーフシチューの特別販売をいたしました。

 

デミグラスソース缶や化学調味料などは一切使わず、おいしくな~れおいしくな~れと念を込めながら数日かけてルーから手づくりした本格的な味わいは、レストランなら一皿2000円は下らない味に仕上がったと自負しております。

 

その入魂のビーフシチューを一皿1000円、ドリンク、サラダ、デザート、コーヒーつきのセットで2500円と言う採算度外視価格で販売いたしましたところ、予想以上にたくさんのご予約をいただきました。

 

もっとも驚いたのは千歳から車で食べに来てくれた方がおられたことです! 片道一時間半の道をビーフシチューのために往復してくれるなんて…… しかもその方は下戸じゃないのに、お酒も飲まずにウーロン茶で……

 

これはかなりの衝撃でした。飲み放題じゃなくても、それどころかお酒を飲めなくても来てもらえるなんて! 

 

ビーフシチューの販売はごはん屋時代から引き継いだものなので、飲み放題をつけようなんて思いませんでしたが、そうじゃなかったら私のことですから「飲み放題つきビーフシチューコース4500円」といった風にしていたかもしれません。

 

もしそうだったら、果たして何名様にご注文いただけたのか? 少なくとも千歳のお客様には食べにきていただけなかったことだけは確かでしょう。

 

 

百合コースとビーフシチューの衝撃、12月はこの二つのおかげで目からうろこがぼろぼろと落ちました。結局、飲み放題に一番こだわっていたのは、お客さんではなく私だったのだと気付かされました。

 

ビーフシチューを作るのは大変手間がかかりますが、時間をかけて真剣に料理に取り組み、おいしいものを仕上げて行くのはとても楽しいことです。

 

百合根も下処理に時間がかかりますが、飾り用に百合根を小さな花びらの形に切って整えている時、その美しさにお客さんが歓声を上げる姿が思い浮かんで、嬉しくて笑えて来ました。

 

飲み放題にこだわらなければできることの選択肢が広がり、下戸のお客さんやお酒よりもお料理を重視したいお客さんにもよりお得で魅力的な提案が出来ます。

 

当店にはお酒を飲めないお客さんも大勢いらっしゃいます。たくさん飲む方、飲めない方の両方が心から楽しめる店にするにはどうしたら良いのか? 今年はこのことを真剣に考えつつ、飲み屋ではなく料理店として多様なお客様に色々な楽しみ方をしていただけるよう、コースメニューの改革に取り組んでゆきます!

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