ありがとうございました!

こんにちは、中村です。当店の本年の営業は昨日が最終日でした。本日より1月4日まで5日間、春道堂はお正月休みとさせていただきます。


以前に経営していた店は学生街にあったので、12月28日くらいになると常連さんがほとんど帰省するため29日には店を閉めていたのですが、さすがはすすきの、30日の昨日もお客様が来てくださり、賑やかで楽しい最終日となりました。



私にとって今年は、41年生きてきてもっとも長く感じられる一年でした。


去年の年末は物件探しのため、仲介業者さんに紹介してもらった空き物件リストを片手に、酔客でごった返す夜のすすきのを一人さまよっていました。


予定してる開店資金と希望の家賃に見合う物件は、かなり古かったり、トイレが男女共用だったり、駅から遠かったり、隣が怪しい店だったりと、どれ一つとして入りたいと思えるところがありませんでした。


やりたいことははっきりと決まっているのに店がなければどうにもできない。良い物件がいつ出てくるのか分からない。本当に私はすすきので店を持つことができるのだろうか? 私のごとき人間が北海道一の繁華街すすきのに店を出そうとしたこと自体が無謀だったのか? 


絶望感に打ちひしがれそうになりながら、寒いけど賑やかな年の瀬のすすきのをビルからビルへとひたすらに歩き回っていました。


あの時の先の見えない不安を思い出すと今でも寒気がします。



あれから一年、私にとっては永遠のように長く感じられた時間だったけど、たったの一年で、風情ある都通りに面した居心地の良い第5グリーンビルに店を持ち、予約で満席になる日があったり、年の瀬の12月30日にもお客さまに来ていただけたりしているなんて、本当に夢のようです。


こんなすごいこと、頭に雪を載せて震えながらすすきのをうろついていた一年前の私に教えても、きっと信じてもらえないでしょう。



夏の頃の苦しかった話はしつこく何度もしておりますが、今年最後のブログですからもう一度だけ言わせてください。


あの頃はお客さんのほとんどが友達や知り合いだったので、帰省者が多いお盆頃は当然当店に来てくれる人も少なく、4日連続でお客さんの来ない日がありました。


電気代節約のために極限まで店内の明かりを絞り、薄暗い中、私は調理や食材や経営やポジティブ自己暗示の本を読んで気を紛らわせ、ぎりぎりのところで精神状態を保っていました。


そんな状態の店ですから、売上から生活費が出るわけもなく、手持ちのだんだんお金も少なくなり、日を追うごとに不安が募ってきました。


前の店をたたんでから3年半、前回の失敗を糧に、考えに考えて作り上げた店だったのに、お客さんの少ない日が続くと自信が揺らぎ始めました。


一体この店の何が悪いのか? 場所は最高なのだから悪いのはメニューか? あるいは私の人間性か? と自己批判や粗探しをはじめ、今やっていることを大きく変えて、できるだけ早く根底から見直さなければ手遅れになるのではとすら思い始めました。


そんな私の迷走を止めてくれたのは、お客さんの反応でした。


夏から秋にかけて徐々に、フリーペーパーを見た方や友達の友達が連れてきてくれた方が増えてきたのですが、そのほとんどがすぐに再来店してくれるのです。


しかも連れられて来たお客さんが、すぐに別のお客さんを連れてきてくれることも多く、リピート率は体感で9割を超えていました。


こんなにすごい確率でリピートしてもらえるのなら、もしかして私のやっていることは間違いではなかったのかもしれないと思えるようになって来ました。


考えれば私の店は、場所は良いにしてもビルの5階です。フリーのお客さまに来てもらえるような立地ではありませんし、フリーペーパー等で店の存在を知ったとしても、雑居ビルの上階にある小さな個人店に足を踏み入れるのはなかなか勇気のいるものです。


なのにちゃんと見つけて来てくれる人がいる、一度来たらほとんどの人に再来店もしてもらえる、これって実はすごいことなのではないか? 長い目で見れば、いずれたくさんのお客さんに来てもらえるようになるのでは? と自信が沸いてきました。


その後もお客さんがお客さんを連れてきてくれる現象が続き、その結果の12月のご予約ラッシュでした。飲食店主として、こんなにもありがたくうれしいことはありません。


今こうして良い年の瀬を迎えられるのは、こんなに分かりにくいところにある春道堂に縁あってたどり着いてくれて、ごひいきにして下さるお客様のおかげです。本当に皆さまありがとうございました。



開店から約7ヵ月半でたくさんのお客様と出会い、いろんな仕事や趣味や人生の話を聞かせていただきました。たった7ヵ月半で、今まで生きて来た41年分の何倍も世界が広がった気がしました。


前の店は6年半やっていたのですが、お客さんと話をすることはほとんどありませんでした。広く席数が多くて営業時間の長い店を一人で切り回すことに必死で、正直に申し上げれば、必要以上のコミュニケーションを回避していたところはありました。


あの頃の私は、決して愛想がよいとは言えないだめ店主だったと思います。おいしいご飯を手際よく作って早く出すことが自分の仕事だと思っていました。つぶれて当然です。


その反省もあり、今回の店ではお客さんとの関わりを大切にしたいと最初から思っておりました。


私は元来なかなかの人見知りなので、カウンター越しにお客様と接することに不安があり、最初の頃はうまく対応できていなかったかもしれませんが、今では前の店とは別人のようにベラベラとしゃべりまくっています。愛して止まないすすきのの夜の魔法が私を変えてくれたのでしょうか? 


ご飯を作って出すだけだった前の店よりも今のほうが何万倍も楽しいです。誇張ではなく、本当に楽しい。41年かけてようやく、一生を捧げられる仕事に出会えました。


大好きな料理を作って、それをおいしいとほめてもらえて、たまにお酒をごちそうしてもらえて、お客さんと友達のように語り合って、それでお金がもらえるだなんて、こんなに楽しくて素敵な仕事、他にはないと思いませんか? なんですべての人間が飲食店主を目指さないのか、不思議で仕方がありません。


まだまだ経営的に安定しているとはいえませんが、いずれこの仕事で食べて行けるようになったら、私の人生には何の悔いもありません。ああ、飲食業とはなんてすばらしい仕事なのでしょう! 


繰り返しになりますが、今年ご来店いただいたすべてのお客さまに、改めてありがとうございましたと申し上げたいです。何度申し上げても足りません。春道堂が存在するのは皆さまのおかげです。店があっても料理が美味しくても店主が張り切っていても、お客様がいなければ当然店は成立しませんから。


それからお酒をご馳走してくださった皆さま、クリスマスプレゼントやおすそわけ等を下さった皆さまにも改めて深くお礼を。


こういうことも前の店ではめったになかったので、こんなにもお客様からご馳走になったり物をいただいたりすることは、結構な衝撃でした。おごり酒もプレゼントももちろん非常にうれしいですが、皆さまがお客様なんですから、無理にお気を使われなくても結構ですからね。



最後に、これは私信となりますが、開店と経営を応援してくれた友人達にもこの場を借りて一年のお礼を申し上げたいです。


物件探しから開店準備までびっしりと手伝ってくれた友人、兄弟のいない私の厄介な頼みごとを引き受けてくれた友人、面倒な申告業務を出世払いでやってくれる友人、過分なる開店祝いをくれた友人、いつも応援し励ましてくれる友人、そして、一度店をつぶしている私を無条件で信用し出資してくれた友人。


みんなのおかげで私は大好きなすすきのに店を開き、不安だった時期を乗り越え、少しずつ飲み屋の店主らしくなり、今までの人生で一番充実した気持ちで大晦日を迎えることができています。


一人ひとりに改まって伝えるのも恥ずかしいのでこの場にて、この一年、私を応援し見守ってくれて本当にありがとうと伝えたいです。一度きりの人生、こんなにも良い友達に恵まれて、私は本当に運の良い、幸せな人間です。



まだまだ語り足りなくはありますが、そろそろ帰省の準備をせねば……


皆さま、本年は大変お世話になりました。また来年、元気にお会いしましょう。良いお年を!



春道堂店主 中村

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