春道堂への道 ~その1 すすきのを選んだ理由~

春道堂開店までの道のりを時々書いていこうと思っております。まずは店を出す場所にすすきのを選んだ理由について。

 

 

 

私を知る人のほとんどは、すすきので開店したことに驚いたと思います。契約時、ビルの偉い方と面会した時に「中村さんはすすきので水商売をやる感じじゃないねぇ」と言われたくらいですからね。(『まじめな人は好きだからがんばって』とも言っていただきましたが。私はまじめそうに見られがちなのです。たぶん眼鏡のせいです)

 

なので、こんな私がすすきので店探していることを知られると心配をかけるだけだと思ったので、物件の契約が正式に決まるまで、ごく親しい友人にすらほとんど言わずにいました。

 

開店が決まってからいきなり連絡してみんなを驚かせてしまったのですが、二回目の開業の場所にすすきのを選んだのは私にとって必然のことで、すすきの以外は考えられませんでした。

 

話は25年前の秋にさかのぼります。

 

 

 

当時高校一年生だった私は、翌日のいとこの結婚式に備えて札幌の伯母の家に泊まっていました。伯母宅には私の父母はもちろん、たくさんの親戚が集まり、大人は酒を酌み交わし、さながら前夜祭のごとしでした。宴もおわり日付が変わったころ、その家の伯母が出かける準備をし始めました。

 

伯母はすすきののビル掃除のアルバイトをしており、本来ならば翌日の昼に仕事に出るのですが、自分の息子の結婚式なので、深夜、すべての店の営業が終わったころに掃除を済ませるとのことでした。

 

夜のすすきのに興味があった私は掃除の手伝いを買って出て、伯母ともう一人のいとこと共にタクシーに乗り込みました。

 

伯母の家は南区の住宅地にあり、時間も時間なので街灯以外の明りは少なく(当時は郊外型の深夜営業の店はそんなになかったのです)、薄暗い中をタクシーは進み、豊平川にさしかかるあたりから、ほんのりと雰囲気が変わり始めました。タクシーの向かう先の空が不自然なほど明るいのです。得体のしれない興奮で胸が高鳴ってきました。

 

そしてすすきの交番付近でタクシーから降りた時の衝撃たるや!

 

1時を過ぎた深夜なのに、私の地元の赤平市なら肉眼で流れ星がいくつも見えるくらい真っ暗な時間なのに、すすきのの街はネオンが瞬き、数多くの老若男女が楽しげに闊歩し、酔客の笑い声や客引きの大声が響き、さながら昼のようでした。不夜城。と言う言葉が頭をよぎりました。

 

その後、すすきののど真ん中のビルで清掃を手伝ったのですが、作業自体はほとんど覚えていません。おばさんは毎日大変だなぁと感じたくらいです。

 

でも、その時見聞きしたバーのママさんと伯母の会話、まだ帰らない酔客がママさんにくだを巻く姿、暗い店内と赤いスツール…… ビルに充満する濃厚な夜の気配はものすごく印象的で、田舎育ちの16歳はすっかり心を奪われました。あまりの衝撃に、翌日の帰宅後、夜遅くまですすきのを賛美するポエムをしたためたほどでした。

 

 

 

あの日からすすきのは私にとって最大のあこがれの地になりました。いつか、何らかの形で、この街に関わるようになりたいものだと、心から思いました。その思いは大学進学で京都に行っても、就職で室蘭に住んでも、少しも変わりませんでした。

 

その私が25年後に、まさかすすきのに店を持つことになろうとは! 正直、そこまでは考えもしませんでした。25年前の私にそっと耳打ちしてあげたらどれほど喜び、自らの運命に感謝することでしょうか。

 

 

 

もちろん、すすきのに店を構えた理由は単純なあこがれだけではありません。私なりに考え抜いてのことです。

 

一回目の店は周囲の意見と世の風潮に流され、右往左往してしまったので、今回の店の絶対的なコンセプトとして「自分が行きたい店、自分の友達がやっていたらうれしい店」に決めていました。物件を探すに当たっても、当然このことを第一に考えました。

 

もしも私の親しい友達が飲み屋を始めるとして、どこでやってくれたら一番行きやすくうれしいだろうかと考えたら、答えは即答、地下鉄南北線の札幌駅からすすきの駅の間でした。

 

札幌市民が買い物やイベントで行く場所といえば、大概札幌駅~すすきの駅の間ですよね? そして飲みに行くのって、買い物やイベントの後が一番楽しいですよね? 存分に楽しんで、ちょっと疲れてて、でもものすごく気分が良くって、このまま帰るのももったいない! 一杯飲んでから帰りたい! となりますよね!

 

あとは大通りやすすきので飲み会があって、一次会で解散になって、ちょっと飲み足りない時など、歩いて行けるほど近くに友達の店があったら嬉しいと思いませんか? 

 

そしてなにより公共交通機関からのアクセスがいい! 南北線の住民はもちろん、東西線でも東豊線でもJRでも電車でも、地下通路を通れば雨の日も雪の日も濡れずに、寒い思いをせずにたどり着けます。冬場、できるだけ外を歩きたくない北海道人にとって、これはとても嬉しいことです。

 

前の店は住宅街にあり、私の店に来るためだけに友達が地下鉄代をかけて往復してくれていることを申し訳なく思っていましたが、札幌駅~すすきの界隈なら、ついでに映画を見たり、買い物をしたり、本屋に寄ったり、カラオケに行ったりもできます。

 

友達の店で飲むだけじゃなく前後の娯楽が増えることは楽しみの相乗効果を与えてくれ、私ならとても嬉しい。

 

そんなわけで、札幌駅からすすきの駅の間に絞って物件を探し始めてすぐに、札幌駅と大通り駅は候補から脱落しました。私が一人で運営できる小さくて家賃が手ごろな店舗物件があるのは、すすきの近辺だけだったのです。

 

そこからは毎日のようにすすきのに通い、全力全開で立地調査を開始しました。季節は晩秋から厳冬にかけて。外を歩くには一番辛い季節でしたが、尋常ならざるすすきのフェチの私ですから、一日ごとにすすきのに詳しくなっていく自分が誇らしくもありました。この話は長くなりそうなので次回に譲ります。

 

 

 

この街で店を始めてからいつの間にやら四ヵ月以上が経過しましたが、25年前から続く私のすすきの愛は留まるところを知りません。買い物に行く時も飲み屋のメニュー表や風俗店の派手な看板を鑑賞するためにあえて遠回りしてしまいますし、特に用事がなくても休みの日にも一度は店に行かずにいられません。

 

地元民と世界各地から訪れる観光客が入り乱れて巻き上がる活気と、ハードな風俗店と飲食店が当たり前のように一つのビルに入り混じるこの街の固有の朗らかな猥雑さが大好きです。

 

これからどんどん日が短くなり、ともすれば私が店に入る前にもネオンが灯る季節になります。のんきなふりをした昼行灯のすすきのも愛嬌があって好きですが、やっぱりこの街にはネオン輝く夜が似合います。寒くなるのは辛いけど、すすきのが一番美しく見える夜が長くなるのはうれしいです。雪にも良く映えることでしょう。

 

すすきのに毎日通って過ごす初めての秋冬を存分に満喫しようと思っています。皆様もぜひご一緒に!

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コメント: 2
  • #1

    網谷美雪です。 (土曜日, 22 11月 2014 20:50)

    12月もよろしくお願いします!

  • #2

    harumichido (日曜日, 23 11月 2014 02:51)

    >網谷美幸様

    この度はご宴会の日程の変更をしてまで当店をご予約くださりありがとうございます!
    当日は美味しいものをご提供できるよう、精一杯がんばります!
    まだまだ日に余裕がありますので、何かご希望がありましたら何なりとご相談くださいね。

    春道堂 中村

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